ちょっと気になったラノベ
“テルミー きみがやろうとしている事は”を読んでいたところ、
1章の最後に中原中也(1907-1937)の詩“また来ん春……”が挿入されていた。
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また来ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になろ
あの子が返つて来るぢやない
おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にやあ)といひ
鳥を見せても猫(にやあ)だつた
最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた
ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……
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最愛の息子を幼くして亡くした際のことを詠ったもので、
存命時の命の輝きを巧みに表現することによって、
その喪失感が一層際立っていると思う。
特に、動物園のエピソードからは、
幼児独特の愛くるしさが余すことなく伝わってくるのが印象的で、
おもわず詩集を買ってしまった。
(“テルミー”のほうは途中で挫折…)
自分が中学時代に学んだ記憶では、
夭折のイケメン詩人の印象しかなかったので、
詩集巻末の年譜に見られる
中也の波乱万丈の人生はなかなかに意外だった。