2011/09/04

ハーモニー:伊藤 計劃

伊藤計劃については、夭逝した作家として、
また1作目の“虐殺器官”から各所で高評価を得ている著者として、
以前より耳にしていた。

で、読後だけれど、
ストーリーの流れ的に考えればラストは綺麗だと思う。
ただ、現在を生きる自分たちにとって、
民主主義のなかで生きる自分たちにとって、
その結果はあまりにも受け止めにくいものだと思う。

キアンは現体制に属するものとして、
トァンは前体制的意識を心に持つものとして、
そしてミァハは新体制を欲するものとして描かれており、
ミァハはハーモニーを実現するにあたって
多くの持論をのべるけれど、
結局は自身の原点に立ち返りたいがためなのでは?
と思ってしまう一面もある。

また、確かにハーモニー後は
感情に左右されず確率論的に正しい判断を
世界規模で実現できる世の中が訪れるのだろうけれど、
その世界では生府に属していなかった人々はどのような運命を辿るのだろうか。
ハーモーニー後の人々がソレに対して、
果たして以前のように労力や時間といった多くのリソースを費やすだろうか。
ただ、そういった行動自体は悪とは言えないし、
短期で争いが終わることで早期に改善に向けた行動に移れることもある。

そう考えると、この本自体が、
世界の一体を望む人に対しては福音であるし、
個人意識の自立を尊ぶ人に対しては反面教師的な意味合いを持つ内容ゆえに、
読後に色々考えるのだろう。